「目からうろこ!」コーナーの紹介
なにか、皆さんの参考になれば幸いです。
【緊張のスイッチを入れないために】
緊張して交感神経(興奮のスイッチ)が過剰に働く前に、副交感神経(リラックスのスイッチ)を意図的に優位にするアプローチが有効です。
1. 「自分」を消して「音楽のしもべ」になる
意識のベクトルを自分ではなく「楽譜(作曲家)」に向けます。「自分を表現する」のではなく、「この曲の美しさを観客に届ける作業を手伝っているだけ」と考えると、主語が「私」から「音楽」に変わり、余計な自意識が消えます。
2. 意識を「自分の指」から「音の響き」へ移す
「指をどう動かすか」に集中しすぎると、脳が動きを監視してしまい、逆にスムーズに動かなくなります(これを「あがり」のメカニズムと呼びます)。 自分の出している音が「ホールのどこまで届いているか」、あるいは「アンサンブルの相手とどう混ざっているか」という外側の響きに意識を飛ばしてください。
3. 「吸う」より「吐く」に全集中する
楽器を構えた瞬間、無意識に息を止めていませんか? 息が止まると体は一気に硬直します。演奏が始まる直前、あるいは休符の間、「肺の底から細く長く吐き切る」ことだけを意識してください。吐き切れば、体は自然に新鮮な酸素を取り込み、リラックス状態に戻ろうとします。
4. 視界を広げ、「空間」を感じる
緊張すると、楽譜や自分の指先だけに視界が狭まり(トンネル視界)、脳が危機状態だと判断します。
演奏中、あえて「ホールの天井の高さ」や「一番後ろの席の空気感」をぼんやりと感じるようにします。空間を広く捉えるだけで、脳は「今は安全な場所にいる」と認識し、副交感神経が働きやすくなります。
5. 「最初の3音」だけを丁寧に置く
「最初の3音(または最初のフレーズ)を、どんな音色で出したいか」だけに全神経を集中させます。出だしが自分の理想に近い音で鳴ると、脳が「いける」と安心し、その後の演奏がオートモード(リラックス状態)に入りやすくなります。
【緊張しそうだと感じたとき、気が張っている状態をリセットするための具体的なコツ】
1. 「温める」と「ゆるめる」
o 緊張すると血流が滞り、指先が冷たくなって動きが鈍ります。
o 手を温める: お湯で洗う、カイロを持つなどして物理的に指先を温めます。血行が良くなると脳がリラックスモードに入ります。
o 顎(あご)の力を抜く: 歯を食いしばっていませんか? 意識的に「奥歯を離し、口を少し開ける」だけで、全身の筋肉の連鎖的な緊張が解けます。
2. 「ゆっくり動く」という儀式
o 焦り(交感神経の暴走)を抑えるため、あえて動作をスローモーションにします。楽器を準備する、椅子に座る、楽譜をめくる。これらを「いつもの1.5倍」の時間をかけて、優雅に行ってみてください。動作をゆっくりにするだけで、心拍数が落ち着いてきます。
3.呼吸で物理的に緊張スイッチを切る
o 呼吸は自律神経を直接コントロールできる唯一の方法です。吐く時間を長くすることで、脳に「今は安全だ」という信号を送ります。
4秒かけて鼻から吸う
4秒止める
8秒かけてゆっくり口から吐き出す(これを1分繰り返す)
4. 体の「こわばり」を先に解く
o 筋弛緩法: 両肩をギュッと耳に近づけるように数秒間力を入れ、一気に「脱力」する。
o ツボ押し: 手のひらの中心(労宮)をゆっくり押して、血行と気を整える。
5. ルーティンを決めておく
o 「これをすれば落ち着く」という決まった動作(アンカリング)を持っておくと、脳が「いつも通り」と認識しやすくなります。
【ステージ袖で「今は戦い(パニック)ではなく、リラックスしていい時間だ」とだますテクニック】
1. 心臓のバクバクを鎮める「バタフライハグ」
o 心拍数が上がっているときは、自分の体を優しく叩くことでリズムを整えます。
o 両手を胸の前で交差させ(右手が左肩、左手が右肩)、左右交互にトントンとゆっくり、優しく叩きます。 左右交互の刺激が脳の興奮を鎮め、自分のリズムを取り戻す手助けをします。
2. 指の震えを止める「等尺性収縮(アイソメトリックス)」
o 震えは、筋肉が「使いたいのに使えない」と空回りしている状態です。一度思い切り負荷をかけると、その後の脱力がスムーズになります。
o 両手のひらを胸の前で合わせ、全力で5秒間押し合い、5秒経ったら、一気に「ハァー」と息を吐きながら脱力し、腕をだらんと下げます。 筋肉の過緊張が一度リセットされ、指先の細かい震えが収まりやすくなります。
3. 「足の裏」に意識の重りを置く
o 緊張すると意識が頭や浮ついた指先に集中し、重心が上がってしまいます。ステージに上がる直前、「足の裏全体が地面にベッタリ吸い付いている感覚」だけに集中します。「地に足がついた」状態を作ることで、呼吸が深くなり、体全体の安定感が増します。
(おまけ:これは私の経験上のアドバイス)
右手、特に、右指が緊張で震える、安定しない場合、指どおしがバラバラになっていることが原因の場合もある。軽くボールをつかむように右手の形を持っていくとよく言われるように、人差し指、中指、薬指、そして小指をお互いくっ付け合うことが指の安定には効果がある。いわゆる「ドラえもんの手」のような感じだ。
そして、指が弦を弾く動きを最小限にとどめる。指がばらばらに離れていて、振りかぶったような弾き方をしていると、安定しないし、速弾きもできない。
『響きに革命を起こす ロシアピアニシズム:大野眞嗣著』を読んでいて、演奏家に響きのパターンが二つあることが分かった。
一つは、「太くて豊かな響き」をいい音とする「基音」をベースにする響き。もう一つが、音圧で響かせない「倍音」による響き。
「基音」とは弾いた瞬間に鳴る立ち上がる音のことだが、この基音だけを聴いて演奏すると音色の変化は生まれないし、遠達性のないいわゆる「近鳴り」の音になる。
一方、「倍音」による演奏とは、基音にのみ注意を払わず、空間に広がる音をとらえるように弾く。この「倍音」による演奏をするためには、「基音」を細くし、その基音の周りにまとわりつくように響きのヴェール(倍音)を存在させるようにしなければいけない。
ピアノの世界では、この「倍音」を基調にした音の響きで演奏することを「ロシアピアニシズム」と呼び、一方で、「基音」をベースにした響きで演奏することを「ドイツピアニズム」と呼んでいるらしい。
先日、松本富有樹氏のコンサートを聴いていて、なぜこんなに、立体的で豊かな響きの音が出せるのだろうと思っていたが、彼は、「倍音」が響くような音で演奏していたのだ。彼が使っている「シンプリシオ」という楽器の鳴りも、「倍音」での演奏に適している楽器なのだろう。
これまで、多くの演奏家のコンサートを聴いてきたつもりだが(といっても福岡の地では限られているが)、多くの演奏家は、「基音」による演奏家たちがほとんどだったような気がする。
音色に独特の色気がある三良裕亮氏は、「倍音」による数少ない演奏家の一人だろう。先日のブーシェによる演奏会での演奏は、特に、そう感じた。
何度聴いても、何時間聴いていても飽きの来ない演奏というのは、この「倍音」による響きの音を基調にした演奏のような気がする。
仏教の教えには、自力と他力がある。
禅宗などは自力の教えで、空の理論を理解し体得するなど、厳しい悟りへの努力を行うことで悲願を叶えるのに対し、真宗などの他力の教えは、ともかく仏を信じれば救われるというものである。そして、「美の法門」の作者柳宗悦は、才があるものは自力を目指せばいいが、凡夫は他力で行くのがいいという。
美しい音楽を生み出すには、凡夫である私は、他力で行くことになる。つまり、自由に演奏できるようになるまで弾きこんでおけば、あとは、音楽の精霊に任せる、つまり他力で演奏すればいい。
また、この他力というのは、論理を考える左脳でなく、情動を司る右脳で弾くということでもある。
他力で演奏することで、静かな感動を聴く人に与えることができる。
つまり、才能がなくても、弾きこんでいくうちに美しい音楽を奏でることができる。柳宗悦が言うところの職人的美である。子供でも一生懸命に練習し、無心に演奏すれば聴いている人に感動を与える演奏ができる。
しかし、下手にそこに自力(考え)を入れる、つまりは、うまく弾いてやろうとか、自分のうまさを自慢してやろうなどという邪念を持ち込むと、とたんに他力の演奏ではなくなり、才能がない人間が奏でる自力の演奏になり、聞き苦しいこととなる。
ちなみに、持って生まれた才能とその才能を伸ばす能力を兼ね備えた真のギタリスト(音楽家)は、自力で演奏活動を行うことで、聴くものに感激を与えることができる。これは、他力で演奏することで受ける静かな感動ではなく、気持ちを大きく揺さぶる動的な感動である。
